◆チェロの表板割れ修理(魂柱パッチ)

2015年04月27日(月)

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現在進めている表板が大きく割れてしまったチェロ修理の様子をレポート。

 

駒足や魂柱が当たる部分を含む約60cmほどの割れです。バスバーと表板そのもののねじれの力によって割れの部分も上下にずれていて、うまく矯正してあげないとなりません。

 

まずは、この割れをずれ無く合わせて接着する必要があるのですが、毎回いくつかの方法をテストしてみて、接着時の合わせのコントロールと結果が最も良いものを、そのケースの修理方針(使用する道具や修理技法)として採用するようにしています。

 

今回の修理はGクランプを使って割れの修理を行いました。

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初めに、割れの両サイドに、わずかに隙間をあけブロック材をニカワ付けします。作業のための作業。このブロック達の接着は一時的なものです。

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割れが上下にずれようとするのをうまく矯正しながら、準備しておいたブロック材を噛むようにGクランプを締めていきます。

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ちなみに、接着時には上下の合わせを誘導するクランプ用に塩ビの当て板を用意しておきます。必要に応じて表側に当てる板と内側に当てる板の厚みや硬さを変えることによって、楽器のアーチが損なわれないよう工夫します。

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割れの接着・補強の取り付けが終わったら、魂柱パッチの施工の準備です。まずは、パッチ施工部周辺の石膏型を取ります。今回は錫箔を用いたキャストの作り方。

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石膏を流し込んだところですね。

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こんな感じの型を取ります。

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石膏型が用意できたら、駒足・魂柱が当たる部分にパッチの形をデザインします。

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魂柱パッチは表板に埋め込むように取り付けるのですが、まずはパッチ材を埋め込む溝の形成です。溝の深さとアールはテンプレートを作って、ある程度設計されたものにしています。こうする事により、この後、パッチ材と接地(接着)面を合わせる仕事もやり易いので、僕はこのようにしています。

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溝の加工が仕上がったら、それにぴったり合うパッチ材を作ります。こちらも作業効率のためにテンプレートを作っておき、小さなヴァイオリンの隆起を形成する感覚で表板と同じ材料を加工していきます。テンプレートでほぼ形を合わせておき、そこからチョークの粉を使い細かい面と面の接地の精度を出していきます。

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表板側に彫り込んだ溝と、それを埋めるパッチ材を合わせていく様子。常に同じ位置で埋め材を当てられるようにガイドとなるブロックを一時的に取り付けて作業をします。

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このようにしながら取り付けられた魂柱パッチはこんな感じ。表板の割れが魂柱の当たる部分を通っている場合は、割れが再度開かないようにこのような補強が必要となります。

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現在、取り外していた表板を楽器に戻し、仕上げに向けてニスをリタッチしているところです。



◆ヴィオラのネック・ベンド修理

2015年04月19日(日)

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ネック材(カエデ材)が反ってしまったことにより、指板がはがれたヴィオラの修理。真っ直ぐな定規を当ててみると、ネックの変形度合いが良く分かります。

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変形が軽度であったり、ペグボックスまでにカンナが掛けられる余地が指板との接着面に設計されている楽器であれば、簡単なネックの平面調整で指板の再接着 が可能です。ただ、今回のヴィオラは生じた反りも大きく、安易にカンナを掛けるとペグボックスが大幅に損なわれてしまうような作りのネックでした。

 

そこで、今回はネック・ベンドを施しての指板再接着という修理方針をとってみました。

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このような治具を作り、熱を掛ける際のベンド幅を調整します。まずは力を掛けていない状態。分かりにくいですが元の反りが確認できます。

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クランプで少し力を掛けて、ほぼ直線定規に沿う真っ直ぐに見える状態。でも、実際に熱をかける時にはこの力加減だと反りが残ってしまいます(修正不足になります)。

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ですので、さらに力を加えわずかに逆反りさせるくらいに調整します。

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ネック材と定規との間に隙間が確認できるくらいの力をかけてみました。こんな感じ。

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そこへ十分に熱した真鍮ブロックを濡れたキッチンペーパーと合わせて押し当て固定します。そして、修正が安定するまでしばらくそのまま放置します。

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十分に時間を置いた後、クランプ・治具類を取り外した状態がこんな感じ。曲げ具合も上手くいき、ほぼ理想的に修正できたと思います。

 



◆大阪での展示会

2015年04月18日(土)

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先日になりますが、4月11日(土)、12日(日)と大阪で催されました、関西弦楽器製作者協会の展示会に参加して参りました。たくさんの方にご来場いただきまして、本当にありがとうございました。

 

今回の大阪でも楽器を弾いて下さった皆さんからは、展示会ならではの貴重な感想をいくつもいただきました。いつも励みになっております。

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今回の展示会では、出展楽器を使った弾き比べコンサートのほかにも、製作者によるトークセッションなどの企画もあり、普段なかなか聞けないおもしろい話も多かったのではないでしょうか。

 

この展示会で、僕は(生まれて)初めて大阪を訪れたのですが、行き帰りともに、同業者の篠崎さんと河辺さんに車でご一緒させていただきました。群馬から大阪、遠かったですが、道すがら先輩の職人さんといろいろな話ができて、とても楽しい旅になりました。

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また、展示会の会期中、ずっと自宅にお邪魔させてくれていた美術家の小池一馬氏(夫妻)には、大変お世話になりました。ほんと感謝です。

 

東京にいた頃に知り合った彼らですが、今回元気そうな二人の顔と大阪のアトリエを見られたのもよかった。

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そして、これらが今回の展示会に出展したヴァイオリンです(会場で自分の楽器だけ写真におさめるのを忘れ、帰ってきてから工房で撮りました・・・)。

 

最新作が左のアンティックフィニッシュ、右は2013年に作ったバロックヴァイオリンです。

 

展示会で催されたミニコンサートでは、第一ヴァイオリンを務めていらっしゃった堀江恵太さんが楽器を選んで下さって、シューベルトの弦楽四重奏第13番 「ロザムンデ」 を弾いて頂くことができました。自分の楽器をコンサートで聴く時には、技術者として独特の緊張感があるのですが、アンサンブルのなかでも無事に音色を聴かせる事ができていたようですので、ほっとしました。

 

あとは余談になりますが、(これはあまり他では言っていないのですが)実は、この2つのヴァイオリンは「ノイズが人に知覚させるもの」という連続したテーマ(というか個人的に追いかけている興味・関心) が製作のモチベーションになっています。特に今回のアンティック楽器は、視覚的にちょっと変わった質感が出せないものかといろいろと挑戦してみております。

 

実際には、ちょっと違う(そもそもデジタルのノイズフィルターを掛ける訳ではない)のだけど、Photoshop でノイズをある配合でシグナルに混ぜると、画像の見え方が変わる(アンシャープマスクも、大雑把に言うと、そんなしくみを利用した効果のようです)というようなこと、またそういった人間の知覚全般が、不思議で面白いなと日々思っておりまして・・・。

 

それぞれ、視覚的、聴覚的に一味違う感じが出せてたらいいのですが。

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