2010年1月

ヴァイオリンの音色が、ジャンルやメディアを問わず、様々なところで聴かれることの増えた感のある昨今、おそらくですが、それだけ音楽業界の変化も著しくなってきているのではないでしょうか。

また、その多種多様な現場でプロとして仕事をこなす演奏家(楽器製作者も同じですが)にも、少しずつですが変化・適用が迫らてきているように感じます。気のせいでしょうか?

かつては、いわゆる「クラシック」の様式の音楽を、「クラシック」な装いで、「クラシック」にあった場所(静かな場所)と聴衆に対してパフォーマンスできれば、演奏家として十分成り立っていたのかもしれません。

ただ、これからは、必ずしもそういうステージ(エンターテイメント)だけではなく、例えば、「J-POPの歌手のバックで」や「何処かの遺産的なスポット(よくあるのが歴史的寺院とかね)でホールには収まらない大きな聴衆に向けて」というような状況で、ヴァイオリンを弾く演奏家も、人材としてどんどん求められていくことも考えられます。

そのような現場では、例え分業的に(舞台監督、音響エンジニア・オペレーター、プレーヤーといった役割の配分で)音楽が作られていたとしても、それらをまとめ上げて質の高いステージ(パフォーマンス)に組み上げていく過程では、個人が「要求に応える」にせよ「要望を出す」にせよ、おそらく最低限のコミュニケーション能力は必須なのではないでしょうか。

ある意味、役割としての専門技術はできて当たり前なのですから、他から一歩抜け出すような、有用なヴァイオリニスト(有用なヴァイオリン製作家・技術者にも当てはまると思うけど)として、現場で求められる(必要とされる)一つのカギがそのあたりにあるのではないかと思うわけです(仮定)。

そこで、一つのとっかかりとして(実験的にも)、PA(←まずはココからですね)に関する用語について少しずつ書いてみようと考えています。

ヴァイオリン弾きに限定すれば、どうしても聞き慣れない(見慣れない)専門用語的なワードに拒否反応・思考停止してしまいがちな方も多いと思いますので、そういった方々にも、退屈せずに何とか読んで頂ける内容を目指してまとめていこうと思っています(できるかなぁ・・・)。

どういう事になるかは判りませんが、何より、自分の勉強になるんじゃないかと思っています。

僕自身がPAの専門家では無いからこそできる(だから、あくまでとっかかり。もし興味が持てたら専門の本でも買って読んだらいいと思います。既に詳しい人には向かない内容かもです)、言い回し・表現を編み出せたら、なお良いかなと。

「そもそも、PA(ピーエー)って何?」

コンサート、イベントの現場、また、その打ち上げの飲み会などで、「PAがいいね(わるいね)」「PA機材」「PAのスタッフさん」っといった言葉を耳にするかもしれません。

辞書的に言うと、「PA とはPAシステムのことで、Public Address (System) の略からきた言葉で・・・」みたいな説明が続いてイヤになってくるので、ここでは単純に「舞台音響」に言い換えて理解していただけたらいいと思います。

本当は「舞台音響」でもいいところを「PA」って言った方が何か業界の人みたいで良いかも、みたいな感覚でどんどん慣れ親しんでいってみてはどうでしょう?

さて、そのPAですが、コンサート現場においてどんな役割をになっているのでしょう?確認の意味も含め、まとめてみましょう。

まずは、ステージ上の演奏者の生音を大きな音に拡声する役割。

次に、各楽器ごとの音量のバランス、音質のコントロール・加工をする役割。

そして、意外に大きな役割だと思うのですが、PAに携わる人というのは、「演奏者」と「聴衆」の丁度中間的な立場で音楽を聴いて、それを操作しているということです。

「演奏者」の音楽的な意図と、「聴衆」が感じる客席での聞こえ方の良し悪しなど、双方のバランスをとりながら、その会場その会場でベストな結果を導き出すという、考えてみたら結構大変なお役目を担っているわけですね。

つまり、結果的にその会場での音楽表現に大きく影響しているとも言い換えることもできます。

以上のことからも、「演奏家」が自分の評価に直接つながるコンサートでのパフォーマンスで、よい結果を生み出そうとした場合、PAの方々とよい関係が築けるか、そうでないかは大きな分かれ道になりそうです。

その為にも、楽器を弾く側として、専門的とまではいかなくても、「あ、今あの辺りの話をしているな。なるほどな~。」と感覚的にピンとくる程度の最低限のリテラシー(知識)を持っていても損はしないのではないでしょうか。たぶん。
結果よく解らないとなっても、興味をもって勉強してみた経験は、その専門家へのリスペクト(敬意)として現れたりするので、それはそれで、悪い結果にもならない感じもするしね(まぁ、知ったかぶりとして現れる人もいるかもですが・・・みっともないのでオススメしません)。

そんなわけで、次回もめげずに読んでみて下さい。

「音の入り口、マイクロフォン」

ヴァイオリニストが、PAを必要とする規模のコンサートステージで、まず避けて通れないのが、マイク(マイクロフォン)とのお付き合いじゃないでしょうか。

マイクは、多くの方が、カラオケなどで既に何となく慣れ親しんでいると思いますが、楽器などから発せられた音(空気振動)を電気信号に変換する例のアレですね。

最近は、コンパクトなハンド・レーコーダーを活用している演奏家も多いので、「音を吹き込む、音の入り口」という感覚は、ほとんど自然に誰もが持ち合わせているように思います。

ただ、身近になり過ぎて、案外意識されないのが、「本来、マイクは振動・衝撃、温度・湿度の変化などにもデリケート」だという性質です。

何でこんな事を説明しだしたかというと、このコラム「ヴァイオリン弾きの為のPA覚え書き」の隠された大きなテーマ「ヴァイオリニストが、PAさんと仲良くなって、大事なステージで良い音をホールに響かせてもらい、結果、演奏家として得をしよう」とおおいに関係しているからです。

何が言いたいかというと、コンサート・ステージの現場では、カラオケマイクのごとく不用意に落としたり、「トントントン(はいってますか?)」的に手で叩いてみたりするだけで、「演奏家としての株が知らないうちに下がる」というリスクが現場には少なからずあるということです。

「いやいや、さすがに落としたりなんかしませんよー」と言われるかもしれないですが、無意識的にも「トントントン」タイプの人は結構いるんじゃないかな?僕はPAの仕事をしているわけではないけど、たまに遊びにいったステージ・リハだけでも、かなりの割合で目にするんです。

冒頭に「マイクは音の入り口」と書きましたが、「入り口に異常があって、万が一、元の生の音がへんちくりんに電気信号に変換されて、大きな音に拡声されてもなかなか良い音響効果に結びつかない(加工するにも余計手間がかかる)。」少なくてもPAの方々には、そういう繊細な感覚があるように感じます。

まあ、実際は、スタジオ・レコーディング用のマイク(これは非常にデリケート)でもなければ、ステージ用途のマイクでは、ある程度の乱暴な扱いにも耐える頑丈さと信頼性の高いマイクが選ばれている事が多い(実際、そういうマイクが多くの現場でベストセラー的に使われているようです)ので、必要以上にビクビクすることはありません。

また、一流のPAさんは、不思議とみんなやさしいので(人格的にすばらしいから一流なのかもね)、大抵の事は「ああ、知らないだけなんだな」と大目に見て下さるので、さほど心配することはないのかもしれません。

ただ、何事も甘えは禁物です。どんな人間関係でも甘えが過ぎるとぎくしゃくし始める事が多いのです・・・(なんちゃって)。

「郷に入りては郷に従え」ではないけれど、舞台音響の専門家たちとの共同作業の場でもある、コンサート・ステージの現場でのエチケット(礼儀作法)ようなものだと思って身につけておいても、損はしない気がします。

こうしてみてはどうでしょう?中途半端なうんちくに走る前に(だって、僕自身も含め、PAさんに専門知識で張り合おうなんて、みっともないじゃないか。確認しておくと、このコラムはPA専門知識を養う目的で書いているわけではありません)、大多数がマイクを「トントン」叩こうとも、あえて自分は「絶対に叩かない」と現場でさりげなく少数派として振る舞う。

そんな小さな事でも、もし現場で徹底してやっていれば「なんかこいつ違うかも」とその道のプロも一目おいてくれるかもしれません。わずかですが、そんな可能性も無くはないのです、この今日のはなし(なんじゃこりゃ?)。

それぞれ異なる専門分野を持ち、その現場で担っている役割に対して、お互いが「一目おく」ことができている状態、それが何より「良い関係」と呼べるのではないでしょうか。

音楽の世界に限定したことではないかもしれないですが、そういう「良い関係」が自分の大切なところで1つでも2つでも持てている人に遭遇すると「強いなぁ」と感じる事が多いように思います。

まぁ、これは僕の主観だけども、そういう人の奏でる音(コンサート)は、何か大きなモノに支えられた自信のようなものに満ちていてかっこいい。

何か、今回は精神論じみてきて自分でも疲れてきたので(本当は、オンマイク・オフマイクまで簡単にまとめたかったのですが、次回に回します・・・)、最後にPA的に例外(特別な方達)のパフォーマンスを研究して終わりにします。

まずは、僕も大好きな故忌野清志郎さんの例です。ポイントがなかなか出てきませんが(2:57以降と4:54以降に注目です。これは、ただ僕がライヴ映像を観たかっただけですね)何かの参考にしてみてください。

何か良いですね、最後ちょっと控えめに回し(PAスタッフにも「ちょっと悪いなぁ」って気を配りながら・・・一流の人はきっと何処かでそう思ってるはず。たぶんね。)つつも、オーディエンスの心も掴んでいますね。あくまで、例外的な「良い関係」が見うけられますね。気のせいでしょうか?

さて、次は、個人のパフォーマンス最優先とでも言いますか、「演奏家」と「PAさん」との「良い関係」という概念がまだ未成熟な時代までさかのぼってみた、例外的パフォーマンスです。

あ!いきなりやってますね。しかも一切の手加減無しです。マイクも青いビニールテープでぐるぐる巻です。すごいなぁー。繰り返しますが、これはあくまで例外。特別な方達です。

お復習いしておきますが「一般的に、マイクは大切に扱っていた方が無難」です。

60年代から70年代にかけて(ちなみに、この映像は1970年だと思う)は、「PAさん」にとっては、現場は戦場だったのではないかと想像してしまいます(あ、今は今で、きっと戦場ですね)。

「なんか自分は、PAさんの事もう少し考えてみようかな」って、少し優しい気持ちなれる良い動画だと思って選びました。

今の時代、「良い関係」には、お互いのちょっとした思いやりも必要なんじゃなかろうか?

以上、今回はいつにも増してひどい文脈でしたが、次回はちゃんと「オンマイク・オフマイクとは?」風にまとめますので、諦めないでください。

というか、万が一、PAなどに興味が出てきたヴァイオリニストがいたとしたら(いろんな引き出しがある事はすばらしい事だと思います。PAの延長でDTMなんかの知識を持つ人が増えたら面白いかもね)、こんないい加減なコラムを読んでいないで、ちゃんとした本を自分で探してね。