2001年6月

Vn-chousei

最近まで、楽器を弾く時間があまりなかったのですが、またオーケストラ活動を再開しようと思ってます。それに向けて、まず自分のヴィオラを調整することになりました。もちろん、何処をどう調整すべきかというのは、親方に教えてもらいながらやっています。
始めに、テールピースの裏彫りをしました。この作業は、今までに何度かやらせてもらったことがあるのですが、削った面を滑らかで連続したものにし、エッジの部分をきれいに出すのは難しいものです。
それから指板に反りを付ける必要があったのですが、これは僕にはできないので、親方にやってもらいました。削ってもらったものをナットの方から見てみると、きれいな曲線を描いていました。このように正しい反りがついていない楽器は、意外と多いそうです。
次に、ナットを接着し、駒の高さを調整しました。下の写真のように、鉛筆で線を引いてその付近まではノミで削り、最後にヤスリをかけラインを整えていきました。ヤスリがけまでしたものが、その次の写真です。

koma1

koma2

これに、等間隔に溝を切り、A線の溝に薄革を貼って駒調整は終了。

今日は、ここまでの調整をした時点で弦を張り楽器を弾いてみたのですが、これだけのことをやったでけでも、音のレスポンスが良くなりました。また、指板に反りを付け駒を下げたことで、随分と弾きやすくなりました。

今日(6/3)は、親方と弓の展示会に行って来ました。会場には、たくさんのオールド・フレンチ・ボウが展示されていました。僕は親方の後にくっついて「これなんか、すごくいい弓だよ。」とか「この部分の精度は申し分ない。」とか教えてもらいながら見てきました。親方の話では、こうした古くて良い弓は、本当に数が少なく、なかなか見られないということでした。確かに、僕が見ても古い弓とは思えないくらい「綺麗だな」と思う弓がいくつもありました。今日は、状態のいい良弓を見る機会に恵まれて良かったです。

弓とはちょっと話がそれますが、展示会には、やはり何人もの製作者の方々がいらっしゃていました。親方に紹介していただいたりもしたのですが、とても緊張しました。

yumibuhinn

親方が弓の毛替えをする時、僕は金属部分(弓ネジ、半月リング、フロッシュ、弓の巻き線)の磨き作業をします。この作業は、その金属の種類(洋銀、銀、金)によって磨き剤を変えて行います。また、同じ材質のものでも、その汚れ方、サビ方などは様々です。

この作業の時には、もちろん汚れなどを落とすことが重要なのですが、これらの部品を傷めないように磨くということも同時に考えなくてはいけません。そういったことからも、僕にとっては、他の作業と同じように気が抜けない作業です。

今日は、自分のヴィオラの顎当ての裏彫り作業をしました。下の写真は、だいたいの形まで削り終えたところのものです。これもテールピースと同じように目には付きにくいところですが、未加工のものと比べると随分と軽くすることができます。その重さの違いは、手に持つだけで分かるほどのものです。

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このような削り作業の時には、親方がいつも言われる「連続した面」を意識し、どうしたらそういう面が出せるのかを考えます。そうやって、ある1つの面に集中して作業していると、時間というものはあっという間に過ぎていて、1日がとても短く感じられます。

今日は、ヴィオラのネック材の製材をしました。このような大きな平面をだす時は、面全体がどのように落ちていっているのかを常に考えながら削っていないと、ある部分だけを削りすぎてしまったりします。だから、削っては、平面を見て、また削っては、平面を見るという作業を繰り返しながら、決まった幅を出していきます。貴重な木材を無駄にしない為にも、これまた一瞬たりとも気が抜けません。

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自分のヴィオラはその後、ナットの溝を調整して一通りの調整を終えました。今回の自分の楽器の調整は、勉強になることばかりでした。楽器の調整自体始めてなので、その1つ1つの調整の技術的なものはもちろんのこと、自分がある程度(音的にも構造的にも)使い慣れた楽器なので、どの様にその効果が現れるのかが分かり易かったと思います。
今回の調整を機に、ケースも新しくしました。親方が、ケースの重要性をよく言われますが、僕もそれを実感として味わう結果となりました。今までのケースに比べると、開ける度に思わずニヤけてしまいそうになるくらい、楽器の見え方が変わってしまいました。高校の時に初めて自分で買った楽器なので、個人的には思い入れのある楽器ではあるのですが、何か特別感が更にアップした感じがします。

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親方の自宅と工房の建て替えの準備の為、今日の午前中は、敷地内にある柿の木を切り倒しました。生きた木を切るということは、やってみたくてもなかなか出来ないことですから、貴重な体験だったと思います。
柿の木自体、ヴァイオリンに使われることはありませんが、指板やテールピース、ペグ、顎当てなどに使われる黒檀は、同じカキノキ科の木材だそうです。

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写真は、今日切り倒した柿の木の幹を輪切り状にしたものです。確かにその中心部には、黒檀によく似たかなり硬質な部分がありました。親方の話では、黒檀も木の幹の中心部から採られるのだそうです。
このような生木を切ってまず分かることは、木に含まれている水分の多さです。非常に重かったです。また、このことから木材として使われる木には、長い時間を掛けて乾燥させる必要があることがよく分かりました。
今日の作業のように、ヴァイオリンを作ることには直接的には関係がないようなことでも、僕にとってはいろいろなことを学びとる教材になっています。

工房の引っ越しが、少しずつ始まりました。仮の工房は、僕が住んでいるアパートのすぐ近く(もとからかなり近かったのですが、更に近くなって家から30秒くらい。いや、もっと近いかも?)です。
今回の工房の建て替えは、工房ができるまでにはどういう事をしなければならないか、また、それにはどんな準備が必要か、それらのことがどれだけ大変なことか、ということを実際に目の当たりにすることになると思います。