2010年2月

「オン・マイクでいきますか?オフ・マイクでいきますか?って聞かれたのですが・・・あれは何様ですか?」

普段のステージでは、生の音で勝負をしている多くのヴァイオリン奏者にとって、もし「オン・マイク」「オフ・マイク」という聞き慣れない言葉を耳にしたら「オン・マイク」は「電源をオンにしたマイク」、「オフ・マイク」は「電源をオフにしたマイク」を思い浮かべるかもしれませんね(そう思うのは私だけでしょうか?)。

でも、ヴァイオリンの演奏の為に現場に呼ばれてから、もし本当に「電源オフでいきますか?」の意味だったら、演奏者としては「なめてんのか?」という話になっちゃいますよね?

そんな、コミュニケーションの崩壊(昔そうな曲がありましたね)をさける為にも、是非今回のコラムも辛抱して読んでいただきたい。

始めにことわっておきますと、通常、PA用語としての「オン・マイク/オフ・マイク」は、そういう意味(電源スイッチのON / OFF )で使われることはありませんので、ヴァイオリン弾きの皆さんは安心して演奏に臨んでください。

(ただ、プロとしての仕事の内容としては、ボーカリストでいう「口パク」、ドラマーでいう「アテブリ」、ヴァイオリンだと「アテビキ」とでも言うのかな?は、実際に多くあります。いずれにしても、その場合に「オフ・マイク」とは言わず、違う業界用語のような言葉で「今回はアテビキだけどヨロシクちゃん!」的に用法が別に存在しているはずです、たぶん。っていうか、それはオファーの段階でわかるよね、きっと。)

それでは、PA用語としての「オン・マイク/オフ・マイク」を簡単にまとめていきます。

「オン・マイク」は、人の口元や楽器などの音源にマイクを近づけて音をとること、又は、音源に近いマイクの設置法そのものをさします。

そして、その反対が「オフ・マイク」ですね。

つまり、「オフ・マイク」は、人の口元や楽器などの音源から遠いところで音をとること、又、そういった、音源から距離のある(遠い)マイクの設置法をさすわけです。

ヴァイオリンに関していうと、ライヴ・ステージで演奏者の楽器の駒やf字孔付近に小さな繭玉の様なモノがアームで固定されているのを目にすることがあると思いますが、あれは「オン・マイク」で収音しているわかりやすい例といえます。

それに対して、コンサートホールに行って天井を見上げると、ワイヤーでマイクがぶら下げてあるのを見つけることができると思います。あちらは、ステージ上の音源(楽器の音)から遠い距離にありますから「オフ・マイク」の一種といえます。

ここまでで「オン・マイク?オフ・マイク?」と聞かれた場合、「楽器からどのような方法で音をとりましょうか?」と問われているのだということが何となくわかってきましたでしょうか?

あとは、それぞれの音の取り方にどんな特徴があるかを、大ざっぱにまとめて今回は終わりにしようと思います。

まず、楽器とマイクの近い「オン・マイク」では、楽器から出る音は明瞭に、周囲の雑音は少なく収音でるのですが、音は空間的な広がりを感じ難いものになりがちです。また、極端に音源とマイクが近いと近接効果と呼ばれる、音の低域が強調される現象が起きるので注意が必要です。

そして、楽器とマイクの遠い「オフ・マイク」では、音の空間的な広がりや臨場感が得られ、近接効果の心配も無いのだけれど、音の明瞭度は劣り、音源とマイクの間(より距離があるわけだからね)に存在する様々な雑音を拾いやすいという特徴があります。

ちなみに、ステージ上のアクションとしてのパフォーマンスも重要視されるライヴ・コンサートでは、「オン・マイク」でヴァイオリンの音を拾い、不足した音の空間的な広がりはエフェクター(←次回以降でまとめていきます)で人工的に付加する場合が多いようですね。

もう既に、自分のマイ・マイクを持っていてライブなどでがんがん使っているというヴァイオリニストも、何となくマイクのアーム(スタンド)をセットするよりも、楽器とマイクの微妙な距離(オフ・マイクにしろという意味じゃないよ)、また、駒やf字孔からのどの辺りで音をとるかなどでいろいろ試してみると、案外おもしろいかもしれません。