2009年9月

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ただ今、新作ヴァイオリン・ヴィオラ共にニスの磨き作業に入っています。
トップページでもお知らせしているのですが、現在、楽器の修理、調整の仕事は、今受けているもの(コントラバスのオープン修理は進めています)以外は9月末まで、楽器お預かりのタイミングをずらしていただいております。
大変ご迷惑お掛けしていますが、ご理解の程よろしくお願いいたします。
ちなみに、2009年9月15日(火)~9月24日(木)は、ヴァイオリン製作コンクールの楽器提出のため、イタリアに行っています。
ヴァイオリン・ヴィオラ、2本の磨き作業は想像以上に根気がいりますね。
間に合えばいいのだけど・・・。

遅くなってしまいましたが、先日のイタリア出張(旅行?)の様子を書いておこうと思います。
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日本を出発したのは、9月15日。桐生駅南口から高速バスで3時間、久しぶりの成田空港です。
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今回、日本はシルバーウィークだとか何とかで、航空券は取り難い+高額でちょっと焦りました(予約が遅いのが悪いんですけどね)。
結局のところ、アエロフロートロシア航空(モスクワ経由)が何とか取れ、イタリアへ旅立てたのでした・・・。
最近、徐々に機内への楽器持ち込みが厳しくなってきていると言われていますが、このアエロフロートロシア。ヴァイオリン・ヴィオラのコンビ・ケースにもかかわらず、全く問題なく乗せていただきました。助かる~。
写真は、乗り継ぎ時の、モスクワの空港にてです。ここまでが、成田から10時間くらいだったかな?
全然話は関係ないのですが、このモスクワでの乗り継ぎゲートで、サッカーの神様(?)ジーコに遭遇しました。
彼は、お兄さんのエドゥと一緒にいましたから、僕はそっくりさんじゃないと固く信じています(結構ミーハーなんですね)。
今回モスクワには、乗り継ぎのため寄っただけでしたが、個人的にはロシアという国は、文化的にも独自性が強そうなイメージが何故かあって、チャンスがあったらいってみたい国の一つですね。
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モスクワを経由し、(また4時間くらいだったかな?掛けて)ミラノ・マルペンサ空港へ。
ミラノに到着したのは22:00過ぎ。空港は市内中心地までは結構離れているみたいで、そこから、プルマン(バス)に乗って50分強。
さて、ホテルはどうしようと思った頃には、結構な時間でしたし、雨なんか降ってきたりなんかして、結構ヤバイ状況でしたね。
でも、意外とこういう時には野生の勘が働くもので(まあ、そこそこ歩き回ったので根性もいりましたが・・・)最終的には、中央駅周辺では比較的安価なホテルにたどり着きました。助かる~ぅ。
写真は、その後に撮った、ミラノ中央駅。
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翌日は、天気も悪かったし、またミラノには戻ってくる予定でしたから、観光的なことは後回しにして、クレモナへ向かうことに。
駅で電車を調べたり、パニーノ(パニーニ)を食べたりして時間を潰していたら、日本人の方に声をかけられました。「もしかして、クレモナに?」といった感じで。
そこで出会ったのが、練馬で工房を開いているという村川さんでした。村川さんも、今回楽器を持ってクレモナに向かうところで「一緒に行きましょう」と相成りました。
ミラノ中央駅から、マントヴァ行きの列車で1時間20分くらい。日本みたいに車内アナウンスもないので、降りる駅がボーっとしてると分からなくなる感じがしましたね。
しばらく、ロンバルディア平原。似た景色が続きます。
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それでも、着いてみると、クレモナ駅は、この辺りの駅では大きめで特徴も何となくある感じでしたね。
写真は、クレモナ駅正面ですが、駅前もきれいに整備されている感じです。
そういった意味の特徴は、町全体にも言えて、小さい割に何となく経済的に安定した町な印象がありましたね。
到着したクレモナ駅では、ミラノで出会った村川さんのお友達の高橋尚也さんが待っていてくれました。
尚也さんとも初めてお会いしたのですが、普段お仕事に通われている工房や、自宅兼作業場など快く見せていただいたり、夕食に呼んでもらったり、随分お世話になりました。
今回、村川さんや尚也さん達に出会えて、随分クレモナでは楽しく過ごさせてもらいました。(他にも今回のクレモナでは、いろんな方との出会いや再会に恵まれました。皆さん本当にお世話になりました。)
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こちら(上写真)は、クレモナのドゥオーモ(夜)です。
ヨーロッパの多くの場所で、このドゥオーモを町の中心に見ることができますが、クレモナのドゥオーモは、また非常に立派なものでした。
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ドゥオーモに向かって左手に隣接している鐘楼は、トラッツォというそうで、イタリアで一番高い(111m)塔なんだそうです。
ドゥオーモといい、トラッツォといい、クレモナという小さな町にこれだけのものが築けたのですから、何かしら力を持った場所だったのでしょうかね?
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そんなトラッツォにも、ちゃんと登ってきました。
いやぁ、こういう屋根のある風景は、やっぱヨーロッパにいる事を強く感じさせてくれますね。
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こちらは、コムーネ宮です。
ここには、通称ヴァイオリンの間と呼ばれる、アマティ、ストラディヴァリ、グァルネリなどのクレモナの銘器が見ることができる展示室があります。
このコムーネ宮の展示室、ストラディヴァリ博物館、市立博物館を全部見る人は、共通チケットがお得みたいです。
コムーネ宮の1階にある本屋さんで買えるのですが、僕は「学生じゃないけど、ヴァイオリン製作をやってる」と言ったら、5ユーロで共通チケットが買えました。一般でも10ユーロみたいです。
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こちらは、ストラディヴァリ博物館の中庭にある石像ですね。
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このストラディヴァリ博物館には、ストラディヴァリが実際に楽器の製作に用いた、内枠や型紙、道具類なども数多く展示されています。
個人的には、これらを見て直接的に自分の製作の参考にする事は少ないのですが、確かに300年経っている楽器を見るのと同じように、本当に古いものが持っている、大きな意味での質感(物の傷み方、変質・変色の感じ、文字などのインクなどの感じ)はいろんなサンプルを見て記憶しておくと何かと参考になるんじゃないかと思っています。
何となくそれらの質感が分かるようになるのを、勝手に「質勘が付く」って呼んでいますけど。
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普段、ストラディヴァリ博物館は、楽器の展示に関しては、20世紀の製作家の楽器が中心のようですが、僕が行った時には丁度企画展示のようなものがされていて、ここでも6本の貴重な銘器が見ることができました。
写真の楽器は、Giuseppe Guarneri “filius Andreae” 1699 です。
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それから、クレモナのヴァイオリン製作学校も少し見学させていただきました。
丁度事務室の所で出会った学生さんが案内をして下さって、少し教室を覗かせていただきました。
案内をしてくれた彼は、なかなか面白い経歴の持ち主で、しばし教室で立ち話をしました。たまたまですが、彼も「イトウくん」でした。
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上の写真は、トリエンナーレの事務局にある、過去のグランプリ楽器のコレクション展示室です。
第3回の園田さんの楽器や、第5回の Marcello Ive の楽器などは、前から一度見てみたかったので、ここの展示は面白かったです。
今回、僕も参加した第12回トリエンナーレは、以下のような結果となりました。
Violin
1: Marko Pennanen (Finland)
2: Raymond Schryer (Canada)
3: Nicholas Gooch (Great Britain)
3: Kelvin Scott (USA)
Viola
1: Antoine Cauche (France)
2: Nicholas Gooch (Great Britain)
3: Kim Okkyum (Suth Corea)
Cello
1: Silvio Levaggi (Italy)
2: Peter Goodfellow (Australia)
3: Michael St・zenhofecker – Robert Kig (Germany)
Double bass
1: 該当者無し
2: Guido Mariotto (Italy)
3: Patrick Charton (France)
9月の17日~20日がコンクールの楽器提出期間で、僕は20日の午前中に、代理人をお願いしました高橋明さん達(イタリアでは大変お世話になりました。本当にありがとうございます。)と共に楽器を窓口に出しに行きました。
僕が出展したヴァイオリンとヴィオラを少し紹介しましょう。
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まず、ヴァイオリンがこちらですね(もう少し大きな写真は、Making の楽器紹介の方でご覧頂けます。)
今回の楽器は、表板の木材そのものの性質が楽器の音のキャラクターにどのくらい影響するのかを確認する意味で、普段、僕の製作では使わない、木目がかなり広くて、かつ、通常の木目と交錯するような独特な模様(英語圏ではベアークロウなんても言いますね)の出るドイツ唐檜材(Haselfichte / ハーゼルフィヒテ)を用いました。
「木目は広い方が~」「木目は狭い方が~」と諸説あり、いろいろと言われますが、今回の楽器に関しては、ほとんど影響という影響は感じられず、僕のいつも通りの楽器の音色のキャラクターの範囲に収まりました。
サンプルの少なさから結論づけるのは早すぎますが、このような見た目上の木目の性質(密度・重さは重要だと思いますが・・・)は、音色への影響より、製作工程そのもの(作り易い・難い)への影響の方が大きいかもしれません。
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そして、こちらは、桐生に来てからは初めての製作となる410mmのヴィオラです。
自分で言うのも何ですが、発音が良く弾きやすいバランスのとれた楽器(高校の時にヴィオラを弾き初めてこの世界に入ってきたようなものですから、そこには、結構こだわっているつもりです。)に仕上がったと思います。
まぁ、なかなか自分らしくできたかと。
コンクール的には特に振るった結果は残せなかったですが、個人的には、今回の製作には満足いく感じかなぁ。
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楽器の提出を無事に終え、いわゆる観光のため、またミラノに戻りました。
本当は、ボローニャとパルマにも行きたかったのですが(何となくおいしいものがありそうなイメージだけで・・・)、クレモナで思っていた以上にいろいろな人会ったりできたので、結果、丸一日観光に時間がとれたのはイタリア最終日のミラノくらいでしたね。
写真は、ミラノのドゥオーモです。
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宗教と建築の壮大さには、人間の持っている力のとてつもない部分が現れているようで、ただただ「すげーなぁ」という感じですね。
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ミラノのドゥオーモは、屋根まで登れます。ミラノの市街が見渡せました。
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ドゥオーモの広場からスカラ広場を結ぶのが、ガッレリアと呼ばれるアーケード。
上の写真が、ガッレリアの入り口ですね。
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そして、こちらがガッレリアの天井。1800年代(正確には、忘れました。)に造られたらしいから、デザイン的にもスゴイよな。
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スフォルツェスコ城にも行きました。
クレモナにいた時には何処にでも歩いていけましたから、何となくその習慣でミラノに着いてからもひたすら町を歩いてしまいましたが、中央駅の方から迷わず歩き出すのは、やめた方がいいです。
ここまで十分遠いです。地球って大きいなってなります。
少なくともドゥオーモまでは、地下鉄で行くものなんでしょうね。今回、体で覚えました。
スフォルツェスコ城内にある市立博物館が見たくてやってきたのですが、そんなこんなで閉館時間ギリギリ。
というか、完全に閉まっていました。
でも、受付で何やら交渉中のヨーロピアン二人組を発見。
「何とか入れてほしい、ミケランジェロを見に来たんだ」みたいなやりとりをしていました。
結局、博物館の守衛さんは、「しょうがないなぁ」と二人を行かせました。
それを、もの言いたげに見ている東洋人。
「あ~ん?お前もかぁ~?」と守衛さん。
そういう時だけ、調子よく「 Si. 」なんてイタリア語を使うんですね。図々しいものです。
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そんな、言葉の壁を乗り越えて到達したのが、このミケランジェロの未完の「ロンダニーニのピエタ」です。
この作品は、ミケランジェロが、ほとんど目も見えなくなりながら死の数日前まで彫っていたとも言われるもので、実際、足の部分は比較的彫り進められているものの、それ以外はかなり粗々しい彫り跡が見受けられました。
いつか、フィレンツェのダヴィデ像も見てみたいけど、(嘘か誠か知らないストーリーもあいまってか?)なかなか生々しいものが見られた感じがします。
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さすがに帰りは、迷い無く地下鉄で中央駅まで。
乗った車両では、突然ヴァイオリンを弾き出す女性が・・・自由だな。
周りも全く動じない。やっぱ成熟した社会なんですかね?
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最後にミラノに一泊して、翌日、再びアエロフロートロシア航空(もちろんロシア経由)で日本に帰ってきました。
今回は、短い期間でしたが随分良い経験ができました。
ジェラートも、パスタも、ピザも、ワインもここぞとばかり楽しみましたし。
いろいろ充電(インプットも含めて)できた部分が多いので、また日本でそれらを発揮できたらと思っています。