◆調整・修理いろいろ

2016年06月03日(金)

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古いスズキのコントラバスの指板の反りの全面削り直し作業。黒檀材ではない指板は削ると当然白くなってしまいますので・・・。

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黒く染めて仕上げることになります。黒は案外よく見ると紫色っぽくなってしまいがちなのですが、いい感じに染まったと思います。

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横板・表板・裏板がはがれてしまった楽器も、新しいニカワで適切な処置をしてあげれば、ほとんどの場合修理が可能です。

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こちらは裏板の割れ修理の為の石膏キャスティングの様子。もう少し肌理が整った石膏にできたら良かったのですが・・・何事も焦ってはいけませんね。

 



◆レーキ顔料(脱線編)

2016年05月29日(日)


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現在製作中のヴァイオリンの注文主の方にニスの仕上げの好みを聞いたら「少し赤っぽいのがいい。」とおっしゃっていましたので、製作の作業を進めながらも、それに合う色味の実験も続けています(実際にニスに用いる前に、いくつか確認・テストしたいことがあるもので・・・)。

 

天然の染料を煮出したものと金属塩を反応させてレーキ顔料を作るのですが、いろいろ基本的なやり方を試してきた中、自分なりの方法論が見えてきましたので、今は少し自分の中に出てきた仮説の検証に入っています。

 

それが一通り終わったら、次に一つ本丸のテーマがある(これが作品になる可能性が高いです)ので、こちらも焦らず着実に進めていこうと思っています。

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ただ、自分でとりあえずやってみようと思ってやる実験の醍醐味は別にもあって、まったく予想してない結果を見るということにもおもしろさを感じます。

 

僕は、ビヒクルとなるロジンをアルカリ溶液にとかして、ロジンそのものが染まるようなイメージ(あくまで、インクの専門家とかではないので、それどおりになっているかの解析より、実用としてニスと用いた時、より欲しい効果が出せるかを優先しています)でレーキ生成の手順を考えています。

 

今までは、そのアルカリ溶液は、主に炭酸カリウム溶液(作る人によって違うみたいです)を用いていたのですが、何となく読んでいたガラス工芸の本で、17世紀以降に北イタリアでガラス作りに用いられた植物の灰のデータが目にとまり、Na2OとK2Oとの配合を考えて試したら突然下の写真のようになって驚きました。

 

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いつもは、濃いコハク色になってロジンが溶けるのですが、今回は何とも形容しがたい・・・オパール的とでも言いいますか不思議で複雑な色の状態になりました。

 

今回のこの一つの結果がどのように成果に結びついていくかは、まだ未知数ですが、自分的には何故かいい予感がしていますので、また今後のリポートにもご期待下さい。

 



◆みささの勉強会へ行ってきました。

2016年03月31日(木)

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今年も鳥取ヴァイオリン製作学校で行われました、みささワークショップに参加してきました。

 

講師のピーター・ベア氏(ピーターさんは、世界的鑑定家のチャールズ・ベア氏の息子さんにあたります)や、他多くの同業者の皆さんと技術交流をしながら一緒に勉強して参りました。

 

ワークショップ期間中は、技術的な意見交換はひたすら盛んに行われて、今回もたくさん学ばせていただきました。

 

一つピーターさんが話して下さった中で、自分もとても印象に残った内容がありましたので、ここでご紹介させていただきます。

 

今イギリスで起こっている面白い現象という話題だったのですが、イギリスのロイヤルアカデミーの学校に現代の新しい楽器のコレクションを作ろうと、大きな寄付をした女性いるそうです。

 

その楽器コレクションは、「①楽器のない学生に弾かせてあげる」という目的ももちろんなのですが、「②学生達に完全に新しい楽器も良いんだよということを理解させる」というのも大きな目的としてやっているそうです。

 

音大の学生が音大を出て世の中に出て行く時に、上の世代の人達から「古い見た目の楽器じゃないと(ダメよ)ね。」ということを言われても、それがプレッシャーにならないようにという教育をしていくという明確な意図があってのことだそうです。

 

実際、このコレクションが学校で良い方向に働いていて、若い人達だけではなく、年上の教授の先生の方も「新しい楽器、いいね。」というマインドに移ってきているらしいです。

 

交換される技術の一つ一つも、自分にとっては非常に有用なことなのですが、こういった世界の状況までは、今まで自分は窺い知れなかったので何より刺激になったお話でありました。また、大変励みにもなりました。



◆各種表板の割れ修理

2016年02月26日(金)

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ここのところ更新が滞っていましたが、相変わらず毎日せっせと作業に勤しんでおりました。

 

最近は、技術書”The Conservation, Restoration and Repair of Stringed Instruments and Their Bows ” でロバート・カウアー氏が紹介している修復テクニックを自分なりにアレンジしてコントラバスの表板の接ぎ割れ修理などをしていました。

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実際に自分の修理に取り入れてみると、本で読んでいるだけでは気がつかなかった作業上の利点があることも解ったので、チャレンジしてみてよかったと思います。割れの合わせのコントロールもイメージ通りにできました。

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その合間に、ヴィオラの割れ修理も進めます。

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そして、チェロの割れ修理なども。

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接ぎ部分が直ったら、補強を入れます。前に自作したクランプ(通称IKEA)も案外出番が多く重宝しております。

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補強は割れた箇所を橋渡しするように入れ、再度割れが開くのを防止します。

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本日無事に(箱)クローズとなりました。ここから、ニスのリタッチをして仕上げていきます。



◆ヴァイオリンのアウトラインの製図

2016年01月07日(木)

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去年の3月に、みささワークショップにてフランソワ・ドゥニ氏から教えていただいた製図法を実践的に取り入れた製作をゆっくりながら進めていこうと思っています。

 

優先的に進行しなくてはならない製作もあるのですが、こちらも今後じっくり腰をすえて取り組んでいこうと考えているプロジェクトであります。



◆コントラバスの駒をアジャスタブルに改造

2015年11月09日(月)

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コントラバスの駒をアルミ製のネジを取り付けて、弦高をアジャスタブルにする改造作業をしました。

 

時より、コントラバス奏者の方から駒のアジャスタブル加工は音が悪くなるのではと心配される声が聞かれるのですが、取り付ける金具の種類の選択や加工処置後に合わせた魂柱調整などを適切にすれば、決して音が悪くなるということはありません。

 

状態の変化という意味では加工の影響は避けられませんが、起きた変化をメリットっとしてまとめるのはコントラバスに限らず調整者の腕の見せ所ではないかなと思います。



◆レーキ顔料作り

2015年11月06日(金)

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やろうやろうと、しばらくそのままになっていたレーキ顔料作りをしました。まず手始めにインド茜から赤色の顔料を作ってみました。茜は色を抽出する前に酢酸で下処理をしておきます。

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アルコール抽出した茜の色素(写真奥左)と、通常水に溶けないロジンをアルカリ溶液で溶かしたもの(写真奥右)、そして明礬(写真手前中央)を用いました。

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続いて、同様にして(とはいえ、水抽出ですが)コチニールでもレーキ顔料をつくってみました。

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顔料が生成して沈殿し始めた様子です。

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上澄みを捨てて、沈殿を洗っていきます。

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最後の洗浄が終わり、再びできた顔料が沈殿してきた様子です。

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完成したレーキ顔料です。写真左がコチニールで写真右が茜です。

 

実際のニスで試すのが楽しみです。

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こちらは、ちょっと番外編でシルバーウィークに子供たちと草木染をして遊んだ様子です。まるまる休みを取ってあげられなかったのだけど、晩に2色(茜・コガネバナ)、朝に2色(ビワの葉・タマネギ)という感じでシルクを染めました。

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上のムスメは、水や染料となる素材を量ったり随分お手伝いをしてくれました。

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染まったシルクのスカーフ。右から、タマネギ、ビワの葉、コガネバナ、茜。

実は、草木染もレーキ顔料も基本は同じ化学反応を利用した技術なのがおもしろいです。

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インド茜、コチニールと、とりあえず基本となる明礬での媒染が出来たので、現在、黄色系や茶系、他の金属での媒染も実験中であります。



◆2015 弦楽器フェア

2015年11月03日(火)

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10月30日(金)、10月31日(土)、11月1日(日)は、都内北の丸公園にある科学技術館で催されました2015 弦楽器フェアへ製作楽器の展示をしてまいりました。たくさんのご来場いただきまして、本当にありがとうございました。

 

今回のフェアにもヴァイオリン2本を出展しました。楽器を弾いて下さった皆さんや、同じ出展者として居合わせた同業者の皆さんから、展示会ならではの貴重な感想をいくつもいただきました。毎回これが楽しみで、とても励みになっております。

 

それから、例年催されている出展作品を用いた弾き比べコンサートですが、今年は初日の30日(金)の最初のヴァイオリンプログラムの中で、一番目の試奏楽器として僕の楽器も弾いていただきました。

 

演奏者はヴァイオリニストの松田里奈さん。曲目はクライスラーの前奏曲とアレグロ・・・これがホント素晴らしかった。

 

正直、このフェアに限らず、自分の楽器がコンサートで弾かれる時というのは、自分の場合、もの凄く批判的に(あくまで自分の製作した楽器に対してなんですが・・・)聴いてしまう悪い習性があって、何かしら自分の楽器に落ち度はないか(プレーヤーの足を引っ張っていないか)というようなことばかり気になってしまうことが多かったのですが、今年は何かが違いました。

 

松田さんの表現力がすべてではあるのですが、自分の楽器を手放しでいいなって思えた本当に稀な瞬間でありました。曲中に聴けた、繊細なあのピアニシモは何か夢ようでもありました・・・。

 

 

そんなこんなで、今回の弦楽器フェア、次の作品に向けて活力をいただいた気がしております。また、がんばってみます!

 

 

(以下、今年のフェアにて。)

 

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◆コントラバスのボタン折れ及びネックリセット

2015年10月11日(日)

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ボタン部が折れてネックが弦の張力に耐えられず抜けてきてしまったコントラバスの修理。表板の接ぎも一部剥がれていたので、この機会に直させていただきます。

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折れてしまったボタンをつなぎ合わせてから、断裂した部分を橋渡しするように、再発防止の補強を入れます。

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(補強として入れる薄いカエデの板の接着の様子。)

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ネックを刺し直すために、一度ジョイントのホゾの幅を狭める加工をします。ここから、ネックのリセットをしていきます。



◆ペグ穴の埋め直し修理(ブッシング)

2015年10月05日(月)

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ペグ穴の埋め直し(ブッシング)修理に使う柘植材を旋盤にて丸棒状に加工。

 

この後、テーパーの付いた各ペグ穴に合わせる加工も僕は旋盤で行います。慣れると案外材料を無駄にせずに多くの穴埋めが可能です。